アドバンド株式会社 中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ(3/4)
「上場企業との成約に導いた“販促の設計図”と“本当の顧客理解”」
アドバンド株式会社 中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ(3/4)
「上場企業との成約に導いた“販促の設計図”と“本当の顧客理解”」
急成長中の広告デザイン会社で代表取締役を務める中野道良さん。
自身の経験をもとにマーケティングのノウハウを記した著書『販促の設計図』も出版しています。
今回は、その中でも特に重要なポイントと、それらを実践に移すためのより具体的な心得について語っていただきました。
『中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ』
『中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ』
目次
- 会社の成長フェーズによって変化する“優良顧客”の獲得戦略とは
- 実績ゼロから新規事業を成功させた集客の極意
- 上場企業との成約に導いた“販促の設計図”と“本当の顧客理解”(当ページ)
- BtoBで優良顧客の獲得を狙う経営者が今すぐ実践すべきこと
信用がなく集客に苦戦…その経験から生まれた“販促の設計図”
信用がなく集客に苦戦…その経験から生まれた“販促の設計図”
(島崎誠:以下、島崎)
ノウハウブックについては、『販促の設計図』にも書かれていましたね。
他の商品サービスでも、そういうものがあると優良顧客の獲得につながるのかなと思います。
その考え方はご著書を読めば分かるのですが、改めて簡潔にお聞かせください。
(中野道良氏:以下、中野)
『販促の設計図』は私自身の経験をもとに書いた本なのですが、集客については創業前からかなり勉強していました。
独立していくら技術があって商品力が高くても、顧客が集まらなくてダメになる会社がいっぱいあるのを知っていたんです。
神田昌典さんというマーケターがいまして、その方の書籍を読んだりセミナーに参加したりすることで集客について学びました。
実際、自分がビジネスを始めたとき、集客はたしかにうまくいきました。
ただ、株主向けのパンフレットなんか特にそうなんですが、取引相手が上場企業なんですよ。
当時5人くらいの会社だったにも関わらず、ダイレクトメールを送付した有名企業から「面白いからぜひ話を聞きたい」という反応が結構たくさんありました。
しかし、実際にセールスに行くと成約しない。
後で分かったんですけど、実績もないし、信用もないし、社員は5人だし、資本金も少ないし、社歴も浅いしっていうことで、結局まったく相手にされなかったんです。
やっぱり上場企業ですから、信用がある会社じゃないと仕事を出せないんですよ。
ですから当時は喉から手が出るほどその企業の仕事をしたかったんですけど、できなかった。
結局、起業してから10年ぐらいかかりましたね。
アポイントを取ってセールスに行っても、ほぼ空振りだったので、そのときにただ集客するだけではダメなのだと気づきました。
(島崎)
接点を持ってから、成約までのハードルをどう超えていきましたか。
(中野)
ただ集客のテクニックや上手いコピーで興味を持ってもらって「面白いから会ってやろう」ということがあったとしても、結果的には成約に至らないので、これはたしかに変えられることと変わらないことがありました。
変えられないのは、社歴や過去の実績です。
これは嘘をつくわけにはいきませんから。
ただ、変えられるところもいくつかあります。
商品に対する理解力とか、これからコツコツ積み上げていく実績というのはいくらでも変えられますし、それに商談のときのセールストークの内容も変えられますよね。
あとはもう一つ、「本当に君たちは信用できるサービスを提供してくれるの?」という問いに対する答えを、口頭だけでなく、ちゃんと書類として、あるいは商品としてまとめなければいけません。
創業数年で、ただ集客するだけではなく「その後のセールスでどういうステップを踏んで成約に導くか」を考えることが必要だと分かったんです。
そこで必要な機能は何かということで、色々やっていくうちに完成したのが“販促の設計図”のアイデアです。
(島崎)
中野さんの著書を拝見すると、“販促の設計図”には6つのパーツがあると書かれていましたね。
販促の設計図——集客から成約までに必要な6つのパーツとは
販促の設計図——集客から成約までに必要な6つのパーツとは
(中野)
そうですね。
リスティング広告とコンテンツSEOというものと、それからダイレクトメール。これらを使って集客します。
私たちはBtoBなので、お客さまは必ずコーポレートサイトを見ます。
取引相手がどういう会社か、信用ある会社なのかを確認しないといけませんからね。
そのコーポレートサイトに辿り着いた人に、ただ見てもらって終わりではなく、足跡を残してもらわないといけないんですよ。
そのWeb上の足跡というのが、無料ノウハウブックの資料請求です。
これで相手の会社名や部署名、名前、住所、メールアドレスが分かり、リストが手に入ります。
そのリストを利用して次はアポイントを取ったり、メールマガジンを打ったり、あるいはニュースレターを発行してフォローします。
“販促の設計図”の6つのパーツとは、この「リスティング広告」「コンテンツSEO」「ダイレクトメール」「コーポレートサイト」「ノウハウブック」「ニュースレター」です。
コーポレートサイトを整えても成果が出ないときに見直すべきポイント
コーポレートサイトを整えても成果が出ないときに見直すべきポイント
(島崎)
それぞれのパーツが機能していくことで、集客もできるし、その後の商談も有利に働くということですよね。
今のアドバンドさんのコーポレートサイトを見ると、実績のページも充実して信用力が高まっていると感じます。
接点だけ持っていても、コーポレートサイトが整ってなかったり、実績があまり載っていなかったり、会社のことがよく分からない状態だと成約しにくかったんだろうなと。
(中野)
そうですね。
皆さんも経験があると思うんですが、ちょっと高い買い物をするときって用心するじゃないですか。
Web広告を見て面白いと思って興味を持つんですけど、例えば数万円以上するものだと、販売元はちゃんとした会社なのか、やっぱり気にすると思うんですよ。
そのときに私も経験があるんですけれども、広告はよくできていても、バナーをクリックして、運営会社のサイトに行ってみると、そのサイトがあまりにも貧弱だとか。
あるいは自分が探す情報が十分になかったり、自分が求めるレベルのものに満たないと感じたりして離脱した経験がおそらく皆さんあると思います。
これはBtoBも全く同じで、一貫性がないとやっぱりダメだなと。
いくら集客のための広告がかっこよくても、やっぱりBtoBのお客さまは特にコーポレートサイトを見ますので、そこにバナー広告以上に気持ちを高める何かがないと、そこから先の行動はできないというのが基本だと思います。
(島崎)
“販促の設計図”の6つのパーツを用意すれば、優良企業を獲得できるのでしょうか。
(中野)
出版した書籍の中で、そこが一番読者に誤解を与えてしまったなと思うところです。
このパーツって実際、コーポレートサイトがない会社はおそらくないし、リスティング広告とかSEOもすでにやっている会社も多い。
やっているのに成果が出ないっていう会社が実は非常に多いんじゃないかなと思います。
そのときに必要なものは“戦略”であって、この6つのパーツは“戦術”。
所詮は手段に過ぎないのです。
例えば、そもそも世の中を見ると売るべき商品がずれている、あるいはターゲットの選定がずれている場合があります。
そのケースは根本的に入り口が間違っているので、まず成果は出ません。
なおかつ、もしその売るべき商品が確かで、ターゲットも合っているにもかかわらず反応がないとすれば、集客以降の設計が間違っていることになります。
何が間違っているかというと、これは私の判断ですが、コピーライティングですね。
何を伝えるかというところを間違うと、見た方の気持ちに訴えられず、いくらSEOやリスティング広告をやっても反応が薄くなると思います。
(島崎)
コピーライティングを改善するには、どうすればいいのでしょうか。
(中野)
セールスコピーライティングはすでに世の中に溢れているテクニックですが、特に通販が参考になると感じます。
私は今でもよく教材として見ていますけれども、ジャパネットたかたさんは秀逸ですね。
彼らがやっている通販はあの短時間にすごい売上を叩き出しているわけですから、学ぶべきことがあるんじゃないかと思います。
セールスコピーで成功する会社が実践している「PASONAの法則」
セールスコピーで成功する会社が実践している「PASONAの法則」
(島崎)
具体的にはどういうところが?
(中野)
ジャパネットたかたさんを含め、成功している会社はほとんどPASONAの法則というものを実践しています。
私自身も、先ほど述べた神田昌典さんの書籍でPASONAの法則を学び、今でも自分なりにアレンジしながらずっと使い続けています。
非常によくできた手法です。
(島崎)
PASONAの法則、人を動かすための心理を踏まえた伝え方のフレームワークですね。
(中野)
そうですね。
まず「Plobrem(プロブレム)」。
まず課題や悩みを伝えて、お客さまの共感を得ると。
次に「Agitate(アジテート)」。
炙り出すという意味ですが、課題を深めて、より身近なものに感じさせるということです。
そこで共感を得た後に「SOlution(ソリューション)」として、自社の解決策はこうですという形で商品サービスをずばり伝えます。
その後に「Narrow Down(ナローダウン)」、自社のサービスや商品の良さを詳しく伝えるフェーズです。
最後に「Action(アクション)」として、よくある「今なら1万円引き」「キャンペーン期間中はこういうサービスが付きます」みたいな形でより背中を押してあげるイメージですね。
この形の組み立てでいけば、いい結果は出るんじゃないかなと思います。
(島崎)
たしかに中野さんが手がけたホームページやランディングページを見ると、うまいなと。
ちゃんと反応を得られるページは、PASONAの法則に沿った構成になっていると思います。
ランディングページを作りさえすればいいという意識で用意すると、あまり人に刺さらない内容になってしまう。
そういう意味でもコピーライティングという、人にどう伝えて動かすのかということを研究し、それを踏まえて先ほどの“販促の設計図”の6つのパーツにあてはめていくと効果的になるということですかね。
(中野)
そうですね。
補足ですが、コピーライティングは非常に奥が深いテーマです。
一つの手法としてPASONAの法則を挙げましたが、それはあくまでも構成の話であって、根本的には共感を得ることが大事だと思います。
ですが、ほとんどの会社は商品説明で終わってしまっているんですよね。
要は商品カタログになってしまっている。
ホームページもリスティング広告も、単に商品の自画自賛で終わってしまうケースが非常に多いんです。
そこで私がよく言うのが、主語をお客さまにすべきだということです。
会社側を主語にすると、どうしてもサービスを売り込もうという言葉になってしまうので、主語をお客さまにする。
「お客さまにとってこういう利点がありますよ」ということを伝えないと、効果はほとんどなくなってしまいますね。
悩みを聞くだけに終わらない本当の顧客理解とは
悩みを聞くだけに終わらない本当の顧客理解とは
(島崎)
商品やサービスに自信があればあるほど、自社を主語にしたアプローチの仕方になりがちだと思うんですよね。
どうしてもその視点から抜け出せない企業もあるかと思います。
そこから切り替えてお客さまを主語にするために、中野さんは実際どういうことをしましたか。
(中野)
それで言うと、主語をお客さまにするというのも、所詮はテクニックなんです。
私が一番大事にしなきゃと思うのが、顧客理解。
お客さまはどんなことで悩んでいるんだろうとか、どんなに大変な思いをしているんだろうということを、自分なりにイメージするのも大事ですし、分からなければお客さまに聞いちゃうのも全然いいと思うんですよね。
「何に困っているんですか?」と聞いた方がいい。
そこがずれていると、いくらコピーライティングという手段で見栄えがいい言葉を並べても反応は来ないでしょう。
まず顧客理解が一番根本にあると考えています。
(島崎)
顧客理解のために悩みを直接聞くということですが、今までやってこなかった人にはハードルが高いのではないかという気がします。
それが出来るようになるには、どういうことをすればいいのでしょうか。
(中野)
例として私の話をさせていただきます。
私たち自身も今、優良顧客と思っているターゲット層の一つに上場企業があるんですよ。
上場企業って、日本で4,000社しかないんですね。
すごく狭いターゲット層です。
そうした企業と取引したいと思ったときに、お客さまの課題って、たしかに表面上だけ見ると、もっとかっこいいパンフレットを作りたいとか、安くしたいとかかもしれない。
けれど実はそれってものすごく表層的な課題なんですよ。
BtoBをやられる方はご存じかもしれませんが、上場企業は社内の承認手続きがあるんですね。
セールス相手の担当者にいくら好かれても、社内で検討されるテーブルがあって、そこで自社の商品をどう見られるかがすごく大事なところです。
その担当者にとっては単にいいものを作りたいと思っているのが悩みかもしれませんけど、会社全体としては、実はそれって大したことじゃなかったりするんですよね。
そうじゃなくて、その方にとっても社内でスムーズに承認されるような提案をしてほしいとか、あるいはすごく些細な事に聞こえるんですが、一回稟議を通したものについてはあまり変えたくないというのもよくあるんですよね。
例えば、最初に出した見積もりから修正が多いとか、仕様が変わったとか、いくら正当な理由があったとしてもそれを変えたくないっていうのも結構お客さまの心理だったりします。
ならば最初からそれを加味した契約見積にするとかということでも担当者は上に通しやすくなるんですよね。
だから想像しなくてはいけないお客さまの課題とか悩みって、目に見えるものだけじゃないんですよ。
私たちみたいな零細企業が上場企業と付き合うなら、その上場企業の担当者の立場で考えるべきだと思うんですよね。
自分自身がその担当者だったとしたら、果たして自分の会社の仕事を零細企業に任せるかと。
もし私が上場企業にいて、20数名の零細企業が来て、彼らの提案内容は素晴らしい。
だけどそれを本当に上に上げるかっていうと、実はそんなに簡単ではないんです。
なぜかというと、もし零細企業に頼んで納期が遅れたり、大きなミスがあったりしたら、例えばその方の出世に響くかもしれない。
その人の人生まで変えちゃうことにもなりかねないので、特にお客さまが大きくなればなるほど保守的になるのは、これはやむを得ないことです。
だからこそその保守的なところに陥らないような、できるだけ外堀を埋めていくような提案が必要だと思います。
リスクをできるだけ少なくしてあげるというところですかね。
(島崎)
テストマーケティングのときに知ることもあるでしょうし、お客さまの内部事情にまで踏み込んだ顧客理解ってすごく難しいですよね。
(中野)
私自身もまだ100%出来ているという自信はありません。
ただ、普段からそういうふうに考える癖をつけないと、特にマーケティングという分野は相手の気持ちを想像できるかどうかで大きな差が生まれると思いますので、非常に大事な点かなと。
マーケティングを“デジタルが得意な人”に一任してはいけない理由
マーケティングを“デジタルが得意な人”に一任してはいけない理由
(島崎)
相手の立場を想像するということは、理屈としては分かっても、考え方や視点も全く違うし、世代も違えば関わり方も違いますよね。
それはコピーライティングを勉強してどうにかなるものでもありません。
その中で、どうすれば今みたいな視点を持って理解を深めることにつながるのでしょうか。
(中野)
ちょっと身も蓋もない話ですが、マーケティングのセンスってある方とない方にはっきり分かれると思います。
社内でも同じことをよく話すのですが、相手の立場に立てるかどうかっていうのは、普段の生活からそれが出来る人と出来ない人がいると思うので。
夫婦でも友達関係でも。
例えば夫婦で、夫が妻の気持ちを本当に理解できているかというと、実際は理解できていない人もかなり多いのではないでしょうか。
これって意外と資質に左右されるところはかなりあるかなと思います。
ですのでお客さまの気持ちを中心とした仕組みづくりが得意な方もいますから、ある程度それを得意分野とする人にやってもらう方がいいと思いますね。
会社の場合は社長がそれをできれば理想ではありますが、苦手な方もいるでしょうから、その場合は支援会社などにアドバイスをもらうことが大事です。
私自身がお客さまをご支援しているときにも感じるのですが、社会的にも有益な事業をされているお客さまであっても、表現がうまいかというと必ずしもそうではなく、非常にもったいない、物足りない表現をされているお客さまも結構いらっしゃるんです。
そういう表現にもかかわらず、ちゃんと世の中に貢献ができて、利益も上げているということは、逆に言うともう少し表現を工夫するだけで企業価値が高まるのではないかと考えています。
(島崎)
その場合は自社で出来るのが理想ですし、社長がそういうふうに顧客理解を深められればいいのですが、得意不得意があるので、やってみてうまくいかなければ、パートナーや支援会社を探して一緒に考えていく。
(中野)
そうですね。
ちょっと危険だなと思うパターンもあって、例えばウェブマーケティング、リスティング広告とか、今デジタルがすごく花盛りの時代なので、新しいことをやろうとする方が多いと思うんですよ。
今はDXも世の中にすごく浸透しているので。
社長さんがデジタル苦手でとか、マーケティングが苦手だというときに、デジタルが得意な人に任せちゃうっていうのが一番失敗するパターンだと私は思います。
さきほども言ったように、顧客理解と手段への理解というのは全く別なんですよ。
手段を理解できる方は山ほどいますから、方向さえ決まれば、その手段のプロフェッショナルを探すことはいくらでもできます。
一方、顧客を理解できる人はすごく少ない。
できれば社内にいればベストなのですが、それができる人がいないままにWebマーケティングの手段だけをやろうとすると、だいたい失敗するかなと思いますね。
(島崎)
本当にその通りだなと思います。
顧客理解が出来ない人に任せてしまってる状態の中で、顧客理解が出来る人をどうやって探すべきでしょうか。
(中野)
やっぱり資質の部分が相当あると思うので、やってみてだと思いますけど。
やってみたら意外と実は向いているということもありますから。
どちらかというと、さっき言ったような手段に固執する人よりは、どういうお客さまに対してどういうサービスを提供できるかということを真剣に考える姿勢がある人の方が好ましいかなと思いますけどね。
(島崎)
感情面での共感能力が高い人が向いているかというと、それは一概には言えないでしょうか。
(中野)
それも難しくて、例えば心理学が得意な方に任せたらいいかというと、またそれは全然違う話だと思います。
やっぱり自社のターゲットとなるお客さまが何を考えてるかということが大事なので。
学問としてやられている方よりは、考える姿勢がある方が向いていると思います。