アドバンド株式会社 中野社長インタビュー

アドバンド株式会社 中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ(1/4)

「会社の成長フェーズによって変化する“優良顧客”の獲得戦略とは」

アドバンド株式会社 中野社長インタビュー

アドバンド株式会社 中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ(1/4)

「会社の成長フェーズによって変化する“優良顧客”の獲得戦略とは」

広告デザイン会社として、さまざまな商品で中堅企業、上場企業を相手に新規を獲得し続けているアドバンド株式会社。

代表取締役の中野道良さんは、自身の経験を元にマーケティングについて解説した本『販促の設計図』を出版しています。

今回は中野さんのケースを伺い、そのエッセンスを抽出して、さまざまな方に生かせるようなお話をしていただきました。

中野道良/MICHIYOSHI NAKANO
アドバンド株式会社 代表取締役

1970年高知県生まれ。
印刷会社で写真製版のオペレーターとして勤務後、デザイン制作会社に入社。社長の右腕として9年半勤め、2005年に個人事業主として独立。
翌2006年、アドバンド株式会社として法人化を果たす。
下請をせず100%直販、営業を置かないユニークな体制で、上場企業を中心とした取引先を次々と開拓。2020年にこの独自のマーケティングを解説した『新規顧客が勝手にあつまる 販促の設計図』を出版。

『中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ』

『中野道良社長に聞く、優良顧客の獲得に関するケーススタディ』

継続する仕事の受注は簡単ではなかった

継続する仕事の受注は簡単ではなかった

(島崎誠:以下、島崎)
早速ですが、中野さんにとって優良顧客とは何ですか。

(中野道良氏:以下、中野)
優良顧客の定義は会社の成長のフェーズで変わってくると考えています。

創業時は、そもそもお客さまがいないじゃないですか。

だから、言ってみれば、仕事をくださる人はみんな優良顧客なんですよね。

とは言え、目の前の仕事が続けばいいんですけど、これって再現性がなくて運頼みなところがあります。

ですから、お客さまを見つける仕組み作りが必要だとは当初から思っていました。

継続的に仕事をしていくためには、どういうお客さまをつかんだらいいかということを当時は考えていました。

当社のビジネスはBtoBですから、どういう企業に対してその商品を売っていくかというところです。

当時考えていたのは、やはり継続的に仕事を発注してくださる方が優良顧客だという定義です。

私たちの商品で、年に2〜4回ほどの頻度で定期的に発注いただけるパンフレットがあったのですが、まずはそのお客さまが優良顧客という判断をしました。

その商品の集客を狙って、そういったパンフレットを発行している企業に対してアプローチしたんです。

(島崎)
創業したてでお客さまがいなかった当時から、優良顧客の位置づけそのものが、どんどんシフトされていったかなと。

その変化に伴って会社としての規模や売り上げなど、具体的に変わっていったことはありますか?

(中野)
創業時は3、4人ぐらいでスタートした会社が、だんだん10名を超えて、20名を超えて、今23名になっています。

その規模が変わる中で、やっぱりお客さまの単価が変わってくるんですよね。

さっき継続性のあるお客さまって言ったんですけど、当初の商品は単価が100万円未満のものがメインでした。

それでも年3、4回発注いただくという商品があって、そういうものを受注していました。

ただ、そういった商品を発注していただくのも、正直簡単ではない。

そもそも継続的に仕事を発注できるお客さまというのは、そうは言っても実はそこそこの規模なんですよ。

例えば数100名規模の企業だとか、あるいは上場企業ということになってくるので。

ですから、創業当初はそういった受注を狙いつつ、現実的に目の前の仕事というのはそれよりも売り上げが低いものでした。

例えば5万円で年賀状のデザインをやってくださいとか、20万円で4ページのパンフレットを作ってくださいとか。

そういうものが当初はメインだったんですよ。

本当は単価が高くて利益率のいい商売をしたいけれども、やはり簡単じゃないんですよね。

これはきっと創業時あるあるというか、皆さん同じ経験をされていると思います。

顧客層の変化に伴いクレームの質も変わる

顧客層の変化に伴いクレームの質も変わる

アドバンド株式会社 中野社長インタビュー

(島崎)
徐々に優良顧客と取引できるようになったことで、社員の方々の働き方に変化はありましたか?

(中野)
創業当時は今から15年以上前の話なので、残業が当たり前。

私たちも、泊まり込みで仕事をするような働き方をしていました。

ただ、やはり根性論だけでやるのは継続性がなくて。

顧客とのやり取りも少ないような、複雑な作業が発生しないものにしていかなきゃいけなかったんです。

そこから優良顧客とはなんだろうとか、どんな商品をぶつければいいんだろうということを考え始めました。

(島崎)
BtoCのビジネスの場合、顧客が集まるにつれてクレームも増えるので、その対応を減らすためにもっと理解のあるお客さまと取引したいというニーズが増えていると感じます。

価格だけで集客してしまうと、クレーマーも多くなって、顧客を増やしてもビジネスとして安定しないし疲弊してしまう。

BtoBでも同じようなことは起きるのでしょうか。

(中野)
BtoCも同じかもしれませんけど、クレームや苦情って仕事に付き物だと思っているんですよ。

むしろ、そういうところを乗り越えることで一段サービスのレベルが上がることもあるので、決して悪いことではないと思っています。

ただ、クレームの質はやはり優良顧客とそうでない顧客で違うケースが多いと思うんですね。

どういうことかというと、あまり好ましくない顧客の場合は、例えば値切ってこられたり、あるいは顧客側の担当者がスケジュールを守っていないのに、こちら側が1日でも遅れるとすごく叱られたり。

結構、理不尽なことがあります。

「顧客はお金を払っているのだから、商品を提供する側が何とかするべきだ」という考えなのだと思います。

一方、優良顧客はそういうクレームがほぼないんです。

むしろ求められている、仕事の棲み分けがありますよね。

そういった棲み分けの仕事がちゃんとできていなければ、それはすごく厳しく問われます。

あとは単価が高い仕事であればあるほど、当然ながら求められるレベルが高くなります。

ですから、提供する側である私たち自身がしっかり学ばなきゃいけない。

その学びというのはお客さまのことだけではなくて、業界のことや、その周りの社会の変化、あるいはお客さまの商品が今までどのように変化してきたのかとか。

そこまで理解を深めないと簡単に提案できないんですよね。

ですから、お客さまが求めるレベルに応えられるような、社員の育成の面が大変になってきます。

商品の質を向上させれば、お客さまも自然と変わる

商品の質を向上させれば、お客さまも自然と変わる

(島崎)
お客さまをどれだけ理解できているのかということにもつながる話ですね。

棚ぼたで優良顧客が増えたらいいなという発想ではなくて、努力が必要になるということですかね。

(中野)
経営の話になりますが、例えば継続型の商品で成功して、ニーズがあるから集客できる。

ただし、利益率があまり好ましくないというケースがありますよね。

ある時期、めちゃくちゃ忙しくなることがあって、従業員が疲弊する。

この形で仕事を増やすと非常にリスキーです。

仕事は増えるんですけど、言ってみればダメ会社がでっかいダメ会社になるだけの経営になっちゃう。

顧客の質を上げていくと同時に商品の質を高めていかないと、会社を大きくしてはいけないと思っているんですよ。

ですから創業時と5年後、10年後で優良顧客の種類も変わってくるのは当然のことです。

当社も人材を増やしてはいますけど、仕事の質もどんどん変わっているので、例えば10年前にあった仕事が今では断るようになった仕事があるんですよね。

商品の中身を変えると、自然とお客さまも変わってくる。

それが成長なのだと思います。

今のお客さまをすごく大事にしていて、その関係性を10年後、20年後もずっと維持していきたいという考えも悪くないと思いますが、私自身はこれほど変化の激しい時代にそれは非常に危ない橋を渡ろうとしてるのかなと思います。

世の中の変化とともに導入する商品も当然変わってくるでしょうし、商品が変わればお客さまも変わる。

もうそれを前提としてビジネスを組み立てていかないと、これから生き残っていけないんじゃないかなと思いますね。

(島崎)
それが最終的にはお互いにとってより利益を出しやすい、よい関係を生むのだと思います。

上から下へというよりは、パートナーとして横のラインで受注してお金をいただけるような企業は優良顧客かなと思いました。

(中野)
お客さまを比較すべきではないかもしれませんが、経験から、やっぱりレベルがあるかなと私は思っています。

例えばできたばかりの零細企業と、実績が数10年の上場企業だと、当然相手に求めるものが違ってきますし、組織も違いますよね。

制作物については、クライアント企業の担当者が他の仕事と兼任でやられている場合もあるけど、大企業の場合は基本的には専任の方が対応されます。

そして、その分求められるものが高くなるんです。

ですからお客さまを選ぶということは諸刃の剣といえる部分があって、本当にいいお客さまを付けようと思うなら、こちらのレベルを高める覚悟がないと、うかつにやらない方がいいと思っています。

“優良顧客とはリピーター”と考えていた定義が現在では…

“優良顧客とはリピーター”と考えていた定義が現在では…

アドバンド株式会社 中野社長

(島崎)
多くの企業が、起業当初は急に仕事がなくなるんじゃないかという不安に苛まれながら目の前の仕事をやっていて、優良顧客を獲得しようということまで考えられないですよね。

そこからアドバンドさんはなぜ優良顧客の獲得にシフトされたんですか。

最初から思っていたのか、何かきっかけがあったのですか?

(中野)
企業っていうのは成長するよりも継続をするというのが一番大事だと考えています。

その面でいうと、やはり継続した、リピートするような仕事を発注してくださるお客さまが優良顧客だと思っていました。

ですが、業界や経営者の考えによって、どういうお客さまを優良顧客とするかは全然違うと思います。

例えばハウスメーカーの、一軒家を売って大きな利益は出るけれども、もう二度とないという商品。

フロー型とも言えると思うんですが、これは決して悪いものではありません。

一方で私自身は、ストック型の継続する仕事がありながら、時々そういうフロー型の案件があるというのが理想だと思っています。

まず最初に継続する仕事を受注して経営を安定させ、そこから次の成長に向けて、一度で大きな利益が出るような案件を目指す。

そういう方向にだんだんシフトしていくことになります。

もともと、優良顧客というのは継続するお客さまのことだと思っていたのですが、徐々にその定義もちょっと変わってきました。

最初にやった仕事というのは、例えば社内報ですとか、個人株主に向けた定期的な発行物で、一つの案件の利益率が決して高くはなかったんですよ。

それでも継続する仕事なので、もちろんありがたい。

ありがたいのですが、単価が比較的低いということと、仕事の中身もすごく企画力が求められるものではないので、限界はあるなと。

これ一つだけで成長するのは難しいかなというところがありましたので、徐々にこの優良顧客の定義を変えていったんです。

それで、定期的な収入を得ながら、時々大きな利益も得るために、1案件で300万円、500万という売上が出るような商品にも新しく参入しました。

これは社史という商品なんですが、50周年とかで発行するような、比較的スパンが長くて、売り上げ利益が高い案件。

ただし10年に1回しかないということなんですが、そういうものに変わってきました。

そういうことをやるうちに、私たちにとっての優良顧客の定義が今現在はどのように変化したか。

やはり企業として利益も必要になってきますので、単価の高い仕事で、なおかつ何度も何度も継続してくれて、それが長きにわたり、できればもう生涯にわたって発注を継続してくれるお客さま。

これが優良顧客だというふうに今は定義しています。

波及性のある商品に注力し新しい提案の機会を創出

波及性のある商品に注力し新しい提案の機会を創出

デジタルブランディング島崎誠

(島崎)
優良顧客を獲得するには、そもそもターゲットをどこにするのかということだけでなく、商品自体の選び方や考え方も重要なんですね。

(中野)
優良顧客のところでリピート継続してくれる、これはすごく大事なことなんですよね。

やっぱり長きにわたって継続していただけるというのは、信頼構築ができてこそというのがあります。

その上で、継続するだけだと確かにありがたい仕事ではあるんですけれども、やっぱりこれって多くの場合は単価が高くない商品だったりとか、あとはずっとやり続けることでマンネリ化することもあるんですよね。

継続的にやっているとどうしても飽きられちゃうことがありますので、継続的なことをやりながら、その仕事が別の仕事に波及するというモデルじゃないと、持続可能な安心した経営ができないと感じました。

そのため、今現在は注力する商品もかなり変わってきています。

単にリピートだけを追いかけるのではなく、波及性がある商品を非常に重要な仕事として位置付けるようになりました。

(島崎)
創業時はそれどころでなくても、経営が安定して自社のブランドの価値も上がってきたときに、他の商品を知っていただくきっかけとなるような商品を投入する。

それによって色々な商品を購入していただく機会を増やす、という意味での波及性が重要なんですね。

(中野)
商品の中でも私たちはBtoBなので、例えばある部門から発注を受けて、それが継続するというケースはあるのですが、その部門がその会社の中で影響力が少ないと波及性ってないんですよ。

ですので今私たちが波及性のある商品に注力しているというのは、例えば企業だと経営企画部のような、社長と直結しているような部門ですよね。

そういうところから発注を受けることによって、必然的に会社のキーパーソンの目に止まります。

そのときに新しい提案の機会を作り出すというような形で、波及効果を生み出しています。

「実績ゼロから新規事業を成功させた集客の極意」へ続く